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六人の嘘つきな大学生・犯人の動機を考察【ネタバレあり】

 浅倉秋成(あさくら あきなり)さんの『六人の嘘つきな大学生』映画化も決定したこの作品、もう読まれましたか?

 『六人の嘘つきな大学生』は、就職活動における「自分を否定されること」「自分が何者かわからなくなる」という悩みがテーマであり、就職活動を経験したことがある人ならば、多くの人が共感できる小説です。

 就職活動という舞台で繰り広げられる6人の出会い、一時の友情、そして戦い…その熾烈な戦いの中で六人の隠された事実が明るみに出るのです。誰が犯人なのか、物語は二転三転します。そして、二転三転するエピソードは、最終的には伏線として見事に回収されます。

 ミステリー好きの私が読んだ中では、久しぶりに「う~ん!」とうなったこの作品、ミステリーに付きものの殺人事件が起こらないのも高評価です。

 このブログでは、➀この作品の構成のすばらしさ➁核となる犯人の動機③私が感じたことを、考察したいと思います。

この作品の構成のすばらしさ

 まず、この作品の大きな魅力の一つは、その複雑なストーリー展開と巧妙に張り巡らされた伏線です。

 読み進めるうちに、先入観による印象操作で登場人物全員が悪者に見え、物語がより複雑に感じられました。

 登場人物たちが一部の印象で判断されることで、物語に次々と新たな展開が生まれ、私はどんどん引き込まれていきました。

 特に、伏線の回収が見事でした。親睦会や月の裏側といった一見関係ないエピソードが、最終的に重要な意味を持つことに驚きました。

 物語の結末に向かってすべてのピースがはまっていく感覚は、本当に脱帽で「やられた!」と感じました。

登場人物の描写

 登場人物たちの個性豊かな描写も、この作品の大きな魅力です。

 大手IT企業に入社するために集まった優秀な6人の大学生たち。それぞれが抱える悩みや葛藤がリアルに描かれています。

 特に「その人の見えている所は一部分の印象であって、それだけですべてを決めつけるのはよくない」というメッセージは、登場人物たちの表裏を見事に描き出していて、深く心に響きました。

就職活動のリアルな描写

 『六人の嘘つきな大学生』は、就職活動という現代の若者が直面するリアルな問題を描いています。

 面接に落とされ続けると自己否定の気持ちが強くなったり、ウソの志望動機を繰り返すことによって、自分の発言と本心とが乖離(かいり)していくことに耐えられなくなったりする自己嫌悪の気持ちなど、就職活動をしている学生であれば、誰もが経験することが描かれています。

 私が就職活動したのは超氷河期といわれる時代でしたので、「自分を否定されること」「自分が何者かわからなくなる」ということを嫌というほど経験しました。

 だから、作品の登場人物たちの描写には、強く共感させられました。

自分を否定される…

 就職活動では、面接やエントリーシートを通じて自分を企業にアピールする必要があります。

 何度応募しても不採用通知が続くと、自分の価値が否定されたように感じます。「自分には何かが足りないのか」「自分はダメなのか」といった疑問や不安が頭をよぎります。

自分が何者かわからなくなる…

 就職活動を通じて感じる「自分が何者かわからなくなる」という苦悩は、企業の求める人物像に合わせ自己アピールを変える必要があるため、「本当の自分はどんな人間なのか」わからなくなります。

 また、エントリーシートや面接で、自己PRを何度も書き直したり話したりするうちに、自分でもどれが本当の自分の考えなのか、次第にわからなくなるのです。

 『六人の嘘つきな大学生』の登場人物たちも、こうした苦悩を抱えながら、自分自身と向き合い、成長していく姿が描かれています。

 そして、時には同じ苦悩を抱える同志のような気持ちさえ芽生えるのです。それなのに、なぜ犯人は、最終関門であるグループディスカッションに残った5人を落とし入れるようなことを考えたのでしょうか?

犯人の動機とは?!

 『六人の嘘つきな大学生』における犯人の動機は、今の就職活動における採用選考に対する深い不満と反発から生まれました。

 就職活動では、短期間の面接やグループディスカッションで学生たちに採用・不採用の評価が下されます。

 しかし、これらの評価方法は、人物の資質を見抜けるようなものではなく、表面的な印象に依存しており、学生たちの本質や能力を十分に反映しないことが多いのです。

 その結果、自分を飾ることや本心を隠すことに長けた者が評価され採用される。本当に実力があるものが採用されないような事態が起こるのです。

 犯人は、この不公平な採用選考のシステムに対して強い不満を抱いていました

 そして、その矛先は企業ではなく、その採用選考という限られた舞台装置の中で巧みに立ち回ることで採用を勝ち取ろうとする、残りの5人の大学生に向けられたのです。

 犯人は、巧妙に自分の正体を隠しつつ、採用選考という極限の状況の中で、他の候補者たちを疑心暗鬼にさせ、隠れた姿を暴露させるために様々な手法を用いていきます。

証拠の捏造と告発文

 次に、犯人の計画の巧妙さについて見ていきます。

 渋谷駅前の大型商業に入居のスピラリンクスでの、グループディスカッション開始後に6人は部屋に不審な封筒があるのを発見します。

 6人宛ての6通の封筒には、それぞれの人物の過去の悪事を告発する内容の文書が入れられていたのです。

 告発内容は、高校時代の部活いじめ…、交際相手を妊娠させ中絶…、本当のバイト先…、高齢者詐欺の片棒、未成年飲酒…

 これは、一体何なのか?採用選考には関係がない過去の自分の姿を、なぜここで求人企業やライバルに晒されなければならないのか!5人は焦ります。

アリバイの工作

 もちろん真犯人は、自分が犯人であることを言う訳はありません。1人ずつ悪事を晒され、脱落しながら、犯人探しも同時に進んでいきます。

 しかし、犯人は、自分のアリバイを巧みに作り上げていました。他の5人の悪事の証拠(盗撮写真)を集めた時間帯に、自分が別の場所にいたことを示す証拠を用意し、他の候補者たちに疑念を抱かせることなく、脱落者を増やしていきました。

 それだけでなく、悪事を晒すための盗撮写真の撮影日は全て2011年4月20日であり、撮影したカメラも同一であることが判明したため、各候補者のアリバイの確認が行われたのですが、その際にも、唯一アリバイのない波多野祥吾(はたのしょうご)に疑いの目を向けさせることに成功したのです。

 これにより、他の候補者たちが互いに疑い合い、信頼関係が崩れるように仕向けました。

 私も読みながら、著者の印象操作が巧みで、登場人物全員が悪者に見え、物語がとても複雑に感じました。

心理戦の展開

 犯人は、グループディスカッションの進行に合わせて心理戦を展開しました。

 告発文が発見されるタイミングや内容を巧みに調整し、候補者たちが最も不安定になる瞬間を狙って情報を流しました。これにより、候補者たちの心理的な動揺を引き起こし、冷静な判断を妨げたのです。

 そして、ついに唯一アリバイの無かった波多野祥吾(はたのしょうご)が、最後の未開封の1通の封筒を手に、採用選考の現場から去っていきます。そして、過去の悪事が晒されなかった最後の候補者が、スピラリンクスに内定するのです。

 採用選考会場に候補者6人の過去の悪事を晒す封筒を置いた人物は、ディスカッション録画用の監視カメラを再生することによって判明しましたが、その封筒を実際に準備した人物は最後までわかりませんでした。しかし、その後、スピラリンクスに内定した最後の候補者が、独自に調査して突き止めます…。

 その疑惑の採用選考(2011年)から8年後、犯人と目され採用試験を飛び出した波多野祥吾が死亡した事実が、波多野祥吾の親族から、スピラリンクスに内定した最後の候補者(現:スピランクス社員)に伝えられるのです…。

 そして、物語のクライマックスでは、意外な人物が真犯人であることが明らかになるのでした

まとめ

 『六人の嘘つきな大学生』は、中盤から後半にかけて何度も騙される展開が続き、最終的には全てが繋がる伏線回収に驚かされます。

 6人の大学生たちの優しさと実直さが伏線回収と共に示され、最後には晴れ晴れとした結末が待っています。

 ぜひ一度手に取って、その魅力を体感してみてください。

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-六人の嘘つきな大学生