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浅倉秋成(あさくら あきなり)さんの小説『六人の嘘つきな大学生』は、就職活動を舞台にした心理戦が展開されるミステリーです。
その中で特に注目されるのが、波多野祥吾(はたの しょうご)という人物です。
彼は、純粋で正義感の強い人物なのですが、最後の手紙で嶌依織(しまいおり)は彼のことを「腹黒大魔王」と呼びます。
嶌依織が彼を「腹黒大魔王」と呼んだのは、どんな意味があったのでしょうか?
このブログでは、波多野祥吾が「腹黒大魔王」といわれた意味や、最後の手紙について考察したいと思います。
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波多野祥吾とは?
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まず、波多野祥吾(はたの しょうご)という登場人物について見ていきましょう。波多野祥吾(はたの しょうご)は立教大学で経済学を専攻しており、散歩サークルに所属している大学生です。
一見好青年…。
彼は表向きには「善良で普通の好青年」として描かれていますが、物語が進行するにつれて彼の裏の顔が次第に明らかになっていきます。
波多野祥吾は腹黒いのか?
嶌(しま)さんが、波多野祥吾(はたのしょうご)のことを「腹黒大魔王さん」と呼んだのは、嶌さんが波多野くんのことを本当に「腹黒大魔王」と思ったからではありません。
そもそも、彼が散歩サークルの仲間たちから「腹黒大魔王」と呼ばれていたのは、彼が腹黒いヤツだから…ではなくて、彼の人柄が「腹黒とでも言わないと面白みが無いほど、彼が本当に誠実な表裏のない良い性格だ」ということを、散歩サークルの親しい仲間たちは知っていたのです。
だから、仲間たちは親愛の意味を込めた内輪ノリの逆表現として「腹黒」と言ったのだと思います。
他大の嶌さんには、波多野くんのサークルでの様子を知る由もないですが、嶌さんが知る就活における波多野くんのイメージと、彼がサークルで周囲からの評価…それは腹黒ではなく腹黒には程遠いほど誠実な裏表のない人物像という評価は一致していたのだと思います。
だからこそ嶌さんは、彼女が知らない世界でも彼が誠実だったことを知り、近しい人が評した逆表現を使って「腹黒大魔王さん」という表現で、嶌さんから彼への親愛の情を表現したのだと思います。
波多野祥吾はIT企業「スピラリンクス」に真実を暴こうとしたから腹黒い!?
最終選考で起こったあの事件、そして波多野祥吾自身が犯人と目されることとなった事件について、自分が犯人ではないこと、そして汚名を返上するための再試験の機会を、波多野祥吾が要望しようとしたことが明らかになります。
もしかすると、波多野祥吾のその行動を以て嶌さんが波多野祥吾のことを腹黒だと感じて「腹黒大魔王さん」と呼んだと解釈する向きもあるかもしれません。でも、私はそれは違うと思います。
もし、人生を決める就職試験で、自分の本当の姿を誤解されたまま企業に評価を受けた、あるいは社会的にもそのような評価を受けたとしたら、誰だって虚脱感に襲われ、そして次第に反論したくなる、名誉を挽回する機会を求めると思います。
これは波多野祥吾と同じ就活生として戦ってきた嶌さんも同じ感覚だろうと思います。ですから、私は、嶌さんが「自分の無実を晴らそうと行動しようとしたこと」を「腹黒だ」と感じたとは思いません。
嶌さんがいちばん腹黒い?
ここからはたいへん穿った見かたをしたいと思うのですが、結果的に嶌さんだけが「悪事」を晒されることなくIT企業スピラリンクスに入社することが叶いました。
そして、波多野祥吾からの手紙をゴミとして捨てたことにより、彼女の「悪事」は晒されることも無くなったのです。つまり最終的に得をしたのは嶌さんだけ…ということです。
でも、このことは波多野祥吾には織り込み済だったのです。
彼は、彼が自分の無実を話そうとすれば嶌さんにどうしても迷惑がかかってしまうことがわかっていたので「スピラリンクス」に告発しなかったのです。
嶌さんには、この事実を告発しなかった波多野祥吾の本当の優しさに触れ、彼がサークルをはじめさまざまな人に愛されていたことも知り、人の本当の善意に触れたように、心が温かくなったのだと思います。
嶌さんが最後の手紙を読んだ決意とは?!
就職活動は、企業と学生との化かし合いです。そもそも限られた時間で、学生は企業のすべてを知ることはできません。また、企業も学生のすべてを知ることもできません。
だからこそ採用選考においては、学生は自分のきれいな部分を見せようと努力しますし、企業もそうです。それは仕方がないことなのです。
しかし、懸命にその学生をその会社を見ようとすればするほど、真面目な学生であればあるほど「第1志望ではない会社に第1志望ですと言うことへの葛藤」、そういう会社に「落とされた時のショック」などいろんなことに心が痛めつけられます。
もちろん、企業側も同様です。
真面目な人事であればあるほど「信じた学生から内定辞退の申し出をされた」ことにショックを受けることでしょうし、採用選考の頃の演技力とは相反して、入社後はサッパリの新人に胸を痛めているかもしれません(まぁ、歴戦の人事は、この程度のことは織り込み済なのでようけど…苦笑)。
物語の最後では、スピラリンクスで面接官を担当することになった嶌さんが、面接を受けに来た学生が、自分の「きれいごと」を自信満々に主張するのを目にします。
その学生は受け答えも素晴らしく非常に優秀な学生であることは嶌さんの目にも間違いありませんでした。
しかし嶌さんは、その学生に「✕」を付けるのです。
しかし面接の最後に、その学生が、会社のパンフレットに書かれている「きれいごと」について質問し、人事の回答を心から純粋に信じている姿を見て、嶌さんは考えを改めその学生に「◎」を付けるのでした。
いったいこの場面は、何を意味しているのでしょうか?本編を読んだあなたには言うまでもないでしょう。
就職活動は企業と学生の化かし合いです。採用権を握っているという点では、採用する側が強いのは当然です。
しかし、採用される学生側から採用する企業側に立場を変えた嶌さんは、企業が学生を見る基準の杜撰さに衝撃を受けるのでした。
嶌さんは、面接を受けた女子学生の姿に過去の自分の姿を見たのでしょう。そして入社後の彼女の姿も…。
でも、いつも「普通でいい人」であろうと努力し、あのギリギリの瀬戸際のグループディスカッションでも嶌さんと共に「誠実」に行動して見せた波多野祥吾の姿かもしれません。そのように乗り越えることができる期待を、女子学生に寄せたのでしょう。
まとめ|腹黒い男…最後の手紙を考察
『六人の噓つきな大学生|波多野祥吾の腹黒さを考察』では、波多野祥吾が本当に腹黒いのかをみてきました。
結論として、彼が「腹黒大魔王」と呼ばれたのは誠実さゆえの親愛の表現でした。
嶌さんも彼の誠実さを理解し、自らの決意を新たにしました。
この作品を通して、就職活動や人間関係の奥深さについて改めて考えさせられます。
『六人の嘘つきな大学生』は、人間の多面性や就活の現実を描いた傑作です。
この小説をまだ読んでいない方は、ぜひ手に取ってみてください。
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