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六人の嘘つきな大学生|伏線まとめ【ネタバレあり】

引用元 かどぶん公式サイト

 浅倉秋成(あさくら あきなり)さんの『六人の嘘つきな大学生』は、巧妙に張り巡らされた伏線と、学生にとって人生を左右する就職活動における人間心理の機微を的確に描写している点がたいへん魅力的な作品です。

 特に、作品の随所で出てくる伏線は、読む人に対する巧妙なミスリード(※勘違いさせるようなヒント)となっており、私たち読者を翻弄させつつ、同時にそれらは真相を解明する鍵ともなっており、読む人を飽きさせません。

 このブログでは、この作品の中で、私が印象に残った伏線についてご紹介していきたいと思います。

 『六人の嘘つきな大学生』を未読のあなたには、少々ネタバレになるかもしれませんが、この物語は、私の考察程度で、面白さが減ってしまったり、謎が解明したりするような単純な物語ではありません。

 未読のあなたには「読んでみたい!」、既読のあなたには「あれ?!もう一回読み直してみようかな?」と思って頂けるような内容だと思っていますので、ぜひ、ご一読いただき、その後はご自身で『六人の嘘つきな大学生』を深く楽しんでいただけたらと思います。

>>早稲田大学を卒業したのに就職先が決まらなかった就職体験記

六人の嘘つきな大学生|あらすじ

 物語の舞台は、スピラリンクスという企業の新卒採用の最終選考。ここに残ったのは6人の大学生です。この選考では、30分ごとに投票を行い、最終的に最も得票数の多かった者が内定を得るという方式です。選考が進む中で、各々の過去の秘密が告発文として暴露されていきます。

登場人物と暴露された秘密

  • 袴田亮: 高校時代、いじめにより部員を自殺に追い込んだ。
  • 九賀蒼太: 恋人を妊娠・中絶させ、その後一方的に別れた。
  • 矢代つばさ: 錦糸町のキャバクラで働いている。
  • 森久保公彦: 高齢者を対象とした詐欺に加担。
  • 波多野祥吾: 大学一年生の時に未成年飲酒をしていた。
  • 嶌衣織: 彼女の秘密は最後まで明かされない

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 次に『六人の嘘つきな大学生』に巧妙に張り巡らされ伏線について以下にまとめます。

六人の嘘つきな大学生|伏線

【伏線1】波多野祥吾と嶌依織が歩くペース

 波多野が嶌に歩くペースを合わせ、他の学生にもゆっくり歩くように告げる。

【伏線の回収】

 物語が進む中で、嶌依織が実は足に障害を抱えていることが判明します。波多野はこの事実を知っていて、嶌の身体的負担を軽減するためにペースを合わせていたのです。波多野が深い思いやりに溢れていたことがわかります。

【伏線2】矢代つばさと優先席

 矢代つばさが電車の三席ある優先席の真ん中に腰掛ける。

【伏線の回収】

 上記の事実により、矢代つばさが優先席に座った行動の意味が変わります。実際には嶌が座れるようにするために、あえて優先席に座って場所を確保していたのです。矢代の行動は嶌を思いやるためのものであり、表面上の行動だけでは理解できなかった彼女の優しさがわかります。

【伏線3】九賀が優先エリアに車を停めたこと

 九賀が優先エリアに車を停める。

【伏線回収】

 こちらも上記の事実により、嶌依織のために配慮した結果でした。これは九賀が嶌のことを気遣い、彼女が少しでも楽に移動できるようにするための行動でした。この行動から、九賀の優しさや他者への配慮がうかがえます。

【伏線4】月の裏側

 「月の裏側」というフレーズが登場するのは、嶌依織と波多野祥吾が会議室で一緒に過ごしているシーンです。

 嶌依織が窓の外に見える月を見ながら「表側しか見せてないんだよね。月―地球からは絶対に裏側が見えないって。それを聞いてから、意味もなく考えちゃうんだよね。月の裏側ってどんなふうなんだろうって」と話します。このフレーズは、彼女の内面に隠された秘密や、物語の中で明らかにされる真実を象徴しています。

【伏線の回収】

 この伏線が回収されるのは、物語が進むにつれて、登場人物たちの隠された過去や嘘が明らかになる場面です。「月の裏側」が示す通り、表面上は見えない真実が次第に明らかになり、読者は登場人物たちの本当の姿や動機を理解することができるようになります。

 このフレーズは物語全体のテーマと深く結びついていて、隠された真実が徐々に明らかになる過程を象徴しています。

【伏線5】矢代つばさのエルメスのバッグの伏線

 矢代つばさがエルメスのバッグを持っているシーンがあります。

【伏線回収】

 最初はキャバクラで稼いだお金で買ったと思われていますが、実際には昔から付き合っていた彼氏からもらったものでした。矢代はそのバッグを修理しながら大事に使っていたのです。彼女が表面上の印象とは違うことがわかり、深い愛情と誠実さを持つ人物であることがわかります。

【伏線6】飲み会のデキャンタ、九賀が波多野に詰め寄る

 飲み会で、嶌がデキャンタの中のアルコールを飲み干すというシーンがあります。そして波多野をトイレに連れ出し詰め寄ります。

 これは遅れて来た九賀蒼太が、嶌が無理やりアルコールを飲まされていると誤解してしまいます。しかし、この誤解が事件の引き金となってしまいます。

【伏線の回収】

 物語が進むにつれて、実際には嶌が飲んでいたのはアルコールではなくウェルチというぶどうジュースだったことが判明します。デキャンタのシーンは、この後の事件に深く関わっていて、物語全体のテーマや登場人物の複雑さを際立たせる重要な伏線となっています。

【伏線7】九賀のコーラ

 物語の中で、九賀蒼太が飲み会の場面で「帰ってから課題があるから」とコーラを注文するシーンが描かれます。この描写は一見、さりげないものであり、特に重要視されないように見えますが、重要な伏線となっています。

【伏線の回収】

 これは、九賀がアルコールを飲めないことを示していて、後に波多野が犯人に気づく手がかりとなります。

【伏線8】九賀のセリフと行動

 「それは”フェア”だ」という九賀の口癖。

【伏線の回収】

 波多野が書いた「犯人、嶌衣織さんへ」これは犯人と私に送ったのでは?と嶌は気づいた。犯人が愛するもの。「それは”フェア”だ」という九賀の口癖は、彼の正義感と公平性に対する強い信念を表していて、これが犯人への伏線となっています。

【伏線9】森久保が小さいメモを握りつぶす

 森久保公彦が小さなメモを握りつぶしたシーンでは、森久保が封筒に関する重要な情報を隠そうとしていることが示されています。

【伏線の回収】

 実は、森久保は選考過程で何者かに脅されており、そのために不正行為を行わざるを得なかったのです。メモを握りつぶすことで、彼がその事実を隠そうとする姿勢が強調され、読者に対して彼の行動が疑念を抱かせるように描かれています。

【伏線10】4月20日の伏線

 4月20日、九賀は森久保から本を借りる約束をしていました。これは2人のそれぞれのアリバイを証明するためのものです

 そして、4月20日に他のメンバーは各自の活動を証明する証拠や証言がある一方で、波多野だけがその日どこで何をしていたかを明確に示すことができません。唯一アリバイの無かった波多野が犯人として疑われることになります。

 このアリバイの欠如が、波多野を犯人として疑われる要因となり、物語の緊張感を高める重要な伏線となっています。

【伏線の回収】

 九賀は、犯人が4月20日に3か所で写真を撮影したと言います。14時に森久保を国立の大学で、16時に自分の授業風景を慶應のキャンパスで、そして17時に矢代のバイトを錦糸町で撮影したとされています。

 しかし、九賀のキャンパスは神奈川県湘南藤沢にあるため、このスケジュールは物理的に不可能であり、矛盾が生じています。この矛盾が事件解決の鍵となります。

 矢代や森久保が犯人から脅されていたことが後にわかり、波多野が犯人ではないことが証明されます。

【伏線11】波多野の心の声

 波多野祥吾が「君が犯人だったのか、君が僕を陥れたのか」と心の中で呟くシーン。この言葉は、波多野が誰かを信じていたにもかかわらず、その人物によって裏切られたと感じた瞬間を表しています。

【伏線の回収】

 波多野は、九賀が犯人であり、自分を陥れるために様々な策略を用いていたことを知る場面です。九賀は、嶌依織に対する正義感から行動していましたが、その過程で波多野を犯人に見せかけるための計画を実行していました。久賀は、波多野が嶌にデキャンタでお酒を飲まされていると勘違い、これにより、波多野は九賀によって不当に疑われ、信頼を失うことになります。

 この伏線が回収されることで、九賀の行動の動機や、彼の正義感が誤った方向に向かっていたことが明らかになります。

 また、波多野が感じた裏切りの感情が読者に伝わり、物語全体のテーマである「信頼と裏切り」が強調されます。

 そして、このセリフは嶌が犯人であると信じ込ませるためのミスリード(※勘違いさせるようなヒント)となっています。

【伏線12】スミノフを飲んでいる写真

 物語の後半で、嶌は波多野が所属していた「散歩サークル:歩っ歩や」のホームページで、波多野がスミノフを飲んでいる写真を見つけます。

【伏線回収】

 この写真は、波多野が新歓コンパでスミノフを飲んでいる場面を撮影されたものです。しかし犯人は、この写真ではなく「ボツ写真」の中のキリンラガービールを飲んでいる写真を証拠として封筒にいれました。

 なぜか?犯人はスミノフがお酒であることを知らなかったのです。波多野はこの写真を見た瞬間、犯人が誰なのか気づきました。

【伏線13】プロント

 嶌依織のバイト先が「プロント」であることが物語の序盤にさりげなく言及されます。この情報は一度だけ登場し、特に重要視されることなく、読者の記憶の片隅に留まります。

【伏線回収】

 物語の後半で、波多野祥吾が嶌を犯人として疑わなかった理由が明らかになります。波多野は嶌のバイト先が「プロント」であることを覚えており、これが彼の論理的な思考の一環として嶌を疑わなかったことに繋がります。嶌はお酒は飲めませんが、プロントでバイトしているから銘柄は知っているはずだと気づきます。

【伏線14】ジャスミンティー

 ジャスミンティーは物語の序盤から何度も登場します。嶌がジャスミンティーを好んで飲んでいることが繰り返し描写され、読者に強く印象づけられます。

【伏線回収】

 ジャスミンティーが何度も登場することで、読者はこれが重要な伏線だと感じるようになります。

 物語の中盤で、波多野のUSBメモリのパスワードを嶌が推理する場面があり、多くの読者は「ジャスミンティー」がパスワードだと思い込みます。しかし、実際にはこれは誤りであり、嶌がジャスミンティーを推理するのは、波多野が嶌を真犯人だと思っていなかった可能性に気づくための重要なステップとなります。

 ジャスミンティーが頻繁に登場することで、読者は嶌が愛したものとして強く記憶します。しかし、この記憶が後に嶌が波多野の気持ちに気づくための手がかりとなり、物語の伏線が見事に回収されます。

 著者は、ジャスミンティーを繰り返し登場させることで、読者に対してわかりやすい伏線を提示しつつ、それが意外な形で回収される巧妙なストーリーテリングを展開しています。

【伏線15】波多野のロッカーと「ヨウイチ」

 グループディスカッション中に自分の悪事が思いつかない波多野が、小学生の時に友達から借りたゲームソフトを返し忘れていると言うシーン。

【伏線の回収】

 波多野のロッカーから出てきた「ヨウイチ」と書かれたゲームソフトは、小学生の時にゲームソフトを借りていた友達の名前です。波多野が本当に大した悪事をしてこなかったことを示す伏線となっています。

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まとめ|六人の嘘つきな大学生の伏線

 『六人の嘘つきな大学生』の伏線とその回収をいくつか挙げてみましたが、いかがでしたか?

 今は、アニメでもミステリー小説でも、伏線回収が持てはやされる風潮がありますが、この『六人の嘘つきな大学生』は、最近読んだ小説の中で、伏線とその回収の見事さ(つまり、未回収の伏線が無く、読後にモヤモヤ感が残らない)は、突出しているように感じました。

 実は、それもそのはず、本作品の著者である浅倉秋成さんは、自称「嫌になるくらい、理屈っぽい」とのことであり、作品を作る際にも、事件発生や新事実の発覚など話の盛り上がりポイントをグラフの高低で表すのだそうです。

 しかも、小説内で絶対に出さなければならないエッセンスを表計算ソフト(Excel)の一覧にして、書き忘れがないように管理しているのだそうです。このように事前に緻密に組み立てられた作品なので、当然、伏線とその回収は、ピタッとハマって読者にモヤモヤ感が残らないのでしょう(私個人的には、こんなにスッキリ伏線回収してくれるならば、浅倉秋成さんの他の作品も読んでみたいと感じるほどです)。

 それはさておき、今回、ご紹介した『六人の嘘つきな大学生』における伏線とその回収は、ごくごく一部で、他にもたくさんの伏線が張り巡らされています。

 これらの伏線がどのように回収されていくのか、その真相をぜひ本書を手に取って確かめてみてください。きっと読後には、作品自体の重い何かから開放されたような爽やかな気持ちになれること、間違いなしです!

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 ここからは、作品をより効率的・効果的に味わうための2つの方法を紹介します。

名作を『漫画』で味わう方法

 あなたは「文学作品は活字で読むもの」と考えていませんか?

 でも、今の若いあなたには、活字よりも漫画を読むほうが、親しみやすいかもしれません。

 また、文学作品と言っても、著名な作品のタイトルは知っていても、内容を知らないこともあるかもしれません。

 そんな時は「漫画で読む」ことをオススメします!

 文学作品を漫画で読むメリットは、イラストがあるため難解な文学作品でもイメージしやすいことです。

 漫画を読んで概要を掴んでから小説を読むと、すっと入り込めますよ!

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読書が楽しくなる!もうひとつの方法とは?!

 『六人の嘘つきな大学生』ですが、活字や漫画で読むこととは異なる、もうひとつの味わい方をご存じですか?

 それは、物語を「耳で聴く」というものです。

 まだ字が読めない幼い子どもたちにとって、耳からたくさんの豊かなことばを聴くことが、その子の将来によい影響をあたえることは、多くの学者が指摘しています。

 ゲームやアニメにかこまれた子どもたちに、いいお話を聞かせることは、豊かな心を育てることでもあるのです。

 私が初めて物語を「耳で聴く」というものを体験したのは、今から約20数年前の大学時代のこと。石川県金沢市にある「室生犀星記念館」で、ヘッドホンを使って、室生犀星の作品をナレーションで静かに聴いた時でした。

 普通、読書というのは「文字を目で読む」ことによって、目から入った文字情報をアタマの中で映像に変換してその内容を理解していくものです。

 しかし、ここで体験した文学を「耳で聴く」ことは、目を閉じてあたかも音楽を聴くような感覚で文学を楽しむことができる、本当に新鮮で衝撃的な体験でした。

 今で言うと「癒し」という感覚に近いと思います。目を閉じてリラックスした状態で良質な文学などの作品を味わうことができるため、作品の世界の中に驚くほど引き込まれます。

 しかし、残念なことに、当時はそのような「文学を耳で楽しむ」方法や媒体は、かなり高価な金額を出さないと体験できないものでした…。

 そして、現在。今ではオンラインで安価にそれを体験できる時代になっていることを私は知りました(驚)。

 オーディブルは、本を聴くための素晴らしいツールです。オーディブルには、さまざまなジャンルの本がそろっています。自分の興味に合った本を見つけることができます。

 そして、いつでもどこでも本を楽しむことができます。耳で聴くことで、目を休めながら物語に没入できます。

 さらに、聴き逃した部分やもう一度聴きたい部分を簡単に再生することができるので、物語の理解を深めるのに役立ちます。

 今なら30日間無料で聴くことができます。ぜひ、オーディブルを活用して、楽しくて充実した読書体験をしてみてください!

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